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ワシントン条約の締約国会議で,モナコが「資源量が8割以上減少し,絶滅の危機にある」として提出した大西洋クロマグロの国際取引き禁止案が否決されました。マグロの寿司大好き人間の多い日本では,生産側,消費側問わず,ほとんどの人が安堵したようです(禁輸で大儲けを企んでいた人にはお気の毒ですが)。
マグロは日本では縄文時代から食されていましたが,鮮度を保ちにくいことが主な原因で,長い間「食材」としては注目されませんでした。江戸時代から明治時代にかけては「下(げ)魚(ざかな)」とみなされ,身分の高い人は口にしなかったということです。一方,江戸時代後期に寿司が発明されて人気を博し,醤油に漬けて腐りにくくしたマグロの赤身が「ヅケ」として握られるようになりました(江戸前寿司では,マグロの握りは「ヅケ」のことです)。このころに,マグロの寿司が脚光を浴びる素地ができていたことになります。
時代は飛んで1970年代,冷凍技術が発達し冷蔵庫も一般に普及したころから,寿司もよし,刺身もよしということでマグロの中でも「トロ」の美味しさが知られてきました。高度経済成長と歩調を合わせて,マグロ大量消費時代が始まったのです。ついには,回遊魚であるにもかかわらず,驚異的な高値を付ける「ブランド・マグロ」まで出現するに至りました。
乱獲の結果,ご多分にもれずマグロ資源の枯渇問題に直面するようになって,マグロの寿司が「日本の伝統料理」と喧伝されるようになりましたが,上記のように実はまだ「トロ」は40年そこそこの歴史しか持っていません。しかも「大トロ」などは庶民には高嶺の花,小生は「メタボ対策」のためにも,スーパーで赤身を買って食するのがせいぜいです。もっとも,養殖マグロが増えて,供給量が少なくなる「赤身」が高級食材になるだろうと予想している人もいるくらいですから,いつどんな風が吹くか分かりません。ビジネスや他の魚種への波及,国際関係などさまざまな力学が働いているのでしょうけれど,もともと「伝統」や「文化」をそんな短いスパンでとらえるのは,それこそ「伝統・文化」の冒涜です。
イワシの刺身もサンマの刺身も(これらが高級魚になるのも時間の問題ですが),他の何ものにも代え難いおいしさをもっています。「マグロマグロ」と眦(まなじり)を決することなく庶民の目線で「食文化」を考え,さまざまな海洋資源を生かしながら,節度ある漁獲や消費の在り方,養殖など人知を尽くし,包括的に対応していこうではありませんか。
それにしても,世界の最先端をいっている「和食」の知恵に驚きを感じます。
(龍門 歩)
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