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“太陽の光をいっぱいに受け,土に含まれる栄養素をたっぷり吸収して育った野菜こそ滋味豊か”という常識が,覆されようとしています。それは,LEDの進歩により,太陽光の代わりに人工光を用いて野菜を水耕(あるいは人工土壌)栽培する技術開発が加速されはじめたからです(植物工場としては太陽光利用型もある)。
工場では,栽培野菜に適した温度や,光,二酸化炭素,培養液などをコンピューター制御するため,天候や季節に左右されることなく,清潔で栄養価に富んだ野菜を安定供給することができます。もちろん,栽培棚を立体的にレイアウトできるので,単位面積当りの収穫量は露地栽培に比べて飛躍的に増加します。
工場内はクリーンな環境に保たれ,土を使わないので農薬を散布する必要がありません。培養液としては,化学肥料のみならず有機肥料を用いる手法も編み出されており,食の安全という問題にも対応できます。さらに,光の強度,波長,照射周期などをコントロールすることにより,栄養価を高め,市場動向などを考慮して収穫時期をずらすことも可能です。したがって,付加価値の高い野菜を効率よく生産することができ,収益性を高めることができます。
もちろん,デメリットも指摘されています。まず,建設コストや,光源・冷暖房に要する電気代などランニングコストが高いことが上げられます。次に,水耕栽培の場合,いったん病害虫が侵入したら水を通して広がるため全滅の危機に瀕します。また,光源器具やコンピューターなどの故障は,施設の運営全体に大きなダメージを与えるでしょう。空調や,受粉に替わる送風なども加わって,電力を多量に使用するため,発電による温暖効果ガス排出量も考慮に入れなければなりません。さらに,栄養価は確保されるとしても,野菜の味や食感が,野生味を失うのではないかということも気懸かりです。
しかし,未だ価格が高いとはいえ,光合成に適した波長を有するLEDを光源として使用することによって,消費電力を激減させることができます。また,工場を消費地近くに建設することができるため,輸送コストや二酸化炭素排出量の低減にも資することになるでしょう。穫れたてが消費者へ届けられ,ほぼ無菌で農薬も付着していないので水で洗わなくても食べることができる野菜も多く,水の節約にもなります。
日本においては,就農者の高齢化,低収益による農業離れ,それらによる食糧自給率の低下などが大きな社会問題となっていますが,植物工場はそれらを一気に解決する妙手となるかもしれません。さらに視野を地球規模に広げてみれば,食糧に関して,増加する人口に生産が追いつかない,異常気象によって収穫が不安定化している,砂漠化などによって耕作地が減る,広大な農地に化学物質を大量に使用している,などの危惧がありますが,現在は主に葉菜類に限定されている植物工場技術を穀物や根菜類などにまで拡大すれば,これらの問題に対応することができるかもしれません。
このように,植物工場には大きな可能性があります。デメリットを一つ一クリアする一方,たとえば太陽光発電植物工場を建設するなどメリットを複合的に生かしてゆけば,壮大な環境対応型植物工場も夢ではないでしょう。「食は大地の恵み」というイメージを大事にしながらも,植物工場の大いなる発展を期待せずにはいられません。
(龍門 歩)
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