分子に「愛」を、分母に「心」を
〈乱気流No.52/08年12月号〉

 世界的な景気後退とマーケットの飽和・縮小などによって、世界中の自動車産業が大きく揺らいでいます。日本においても、人口減、高齢化などの要因が絡まり合って乗用車の需要が減っているうえ、貨物輸送量も減少傾向にあるということです。
 これを受けて,国土交通省では,2020年まで交通量が増え続けるとした従来の推計(第1表)を下方修正し,30年までほぼ横ばいが続くという新たな推計を出しました。同時に、便益(走行時間短縮,走行経費減少,交通事故減少)を費用(事業費と維持管理費)で割って算出する費用対効果〔式1〕に関して,時間短縮のメリットとして算入する平均賃金を引き下げるなどの見直しを行ない,便益を低めに出すことにしたため,建設を認められない新規路線も出てきそうだ(「毎日jp」より)ということです。
 ただし、道路関連事業は経済規模が大きいだけに、強い政治力学や企業原理がはたらき、計算式どおりに事が運ぶわけではありません。予想どおり政治は即座に反応し、道路建設が減りそうだという観測を牽制しています。いっぽうで国土交通省は、「エコ」時代を受けて「人間重視の道路創造研究会」を立ち上げ、発想を新たにしようとチャレンジしています。
 鉄路や空路、海路などが開発され、情報網が張りめぐらされた現代でも、なお道路は人類活動にとって最大のインフラであることに変わりはありません。さまざまな角度から道路について考えをめぐらし、斬新なイメージをふくらませ、おおいに議論することは大切なことだと思います。
 ところが,国土交通省が採用する〔式1〕は合理的ではありますが,人間的視点が大きく欠落しているように見受けられます。数値化できる「経済」的視点だけの産物であり,人同士の助け合い精神も,地域を育む知恵もなく,ましてや人への思いやりの欠片もないからです。これでは,さまざまな弱者を切り捨て,歴史を断ち切り,文化を破壊するおそれがあります。
「精神」や「知恵」や「思いやり」などは数値化できません。だからといって,数値化できるファクターだけで物事を判断し,事業を推し進めれば人類社会や地球は歪むばかりです。とはいえ、事業を推進するには当然ながら数字の裏付けもなければなりません。現実に生活している人々に対して、より良い環境を提供しなければならないからです。したがって、〔式1〕を基礎的な指標としながらも、せめて脳裡に、分子=「便益」の( )内に「愛」を,分母=「費用」の( )内に「心」を追加しましょう。いずれもけっして数値化できませんが,少なくとも政治家やお役人が,駆け引きや計算だけで判断することをためらわせる効果はあるのではないでしょうか。


(龍門 歩)

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