豊洲への移転に伴う食の安全度と,費用対効果は?
〈乱気流No.46/08年6月号〉

 東京都が築地市場の移転予定先とする豊洲地区は,ベンゼンやシアン化物など多数の有害物質により,恐るべき濃度で汚染されているということが5月初旬に報道されました。したがって,表層2メートルまでの土壌入れ替えや,さらに深い土壌および地下水を環境基準以下にするための処理を施さなければならないというのです。
 これについて「豊洲地区市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」の平田座長は,「高い濃度が出た領域は限定的で,対策は可能」(『日本経済新聞』2008年5月20日付朝刊)といいます。しかし,「地下水位は海抜0m前後と高く,±2mもある潮位の影響,毛細管現象(最大2m上昇)などにより,下部に残された汚染地下水が上昇して表層土壌が再汚染される恐れが十分にある。(中略)また,ベンゼン,シアン,水銀などは,常温でもガス化し蒸発するので,覆土や舗装しても隙間から漏出する可能性がある」(「日本環境学会・日本科学者会議公害環境問題研究委員会シンポジウム声明」より)という見解もあるのです。
 さらに同声明では,「豊洲は昭和期の浚渫土砂による砂質土が主体の埋立地である。砂質地盤は,地震時に〈液状化〉と〈側方流動〉を起こしやすく,地盤や建物の崩壊と汚染土壌や地下水が混じった泥水の噴出が予測される」と,首都圏直下地震が襲ってきた場合,江戸時代に埋め立てられた築地より危険だとも指摘しています。
 移転する場合,土壌改良工事費だけでも一千億円を超え,さらに地下水処理,徹底した対策を施した建築物,移転費用,周辺の道路整備などが必要で,その費用は莫大な額に上ると予想されます。それほどの資金をかけてまで移転する必要があるのでしょうか? 
 たしかに築地は1935年に開場され,1988年ころに現在の姿に改修された施設なので古く,物流や情報受発信にストレスをかかえ,なおかつ産業規模不相応に狭く効率が悪いでしょう。また,衛生面でも現代のレベルに比べれば万全ではないようです。だからといって,がんや潰瘍,呼吸器系疾患,生殖毒性,免疫毒性その他もろもろの疾病が危惧される有害物質で汚染された地域に設けられる市場の食を歓迎する気にはなりません。ましてや,築地市場を支え,あるいは共に食文化を築いてきた中小の市場関係者が強いられるであろう生活の変転を考えればなおさらです。
 それに,費用対効果はどうなるのでしょう? このところ築地市場の取引量が減少ぎみだとというのに,これからは水産物の減少,人口減少,さらなる高齢化,はたまた大手小売業者の産地直接取引の増加などによって,中央卸売市場そのものの規模が縮小するかもしれません。そうなったら新銀行東京のように,注ぎ込んだ費用を回収するどころか,大きな損失を計上しないとも限らないのです。
 そんな状況下,巨費を投じて移転するより築地市場を生かすほうがベターだと思います。施設内に残っているというアスベスト対策を早急に実施し,ネット社会に適応するように改修すれば,豊洲地区より安全な魚や青果などの生鮮食品を都民に届けつづけることができるでしょう。改修工事による市場機能の低下も移転の理由にあげられていますが,移転した後の大きなリスクに比べればはるかに安心です。しかも,七十数年にわたって築き上げられた「築地の食文化」が次代へと継承され,都民の台所に安らぎをもたらすでしょう。
 強力に移転を推進する背景に何があるのか知りませんが,最も大切なのは,目先の利益や希望的観測などではなく,未来を見据えた消費者の安全と安心,そして納税者の負託に応える姿勢です。このことを肝に銘じて,都は移転問題を白紙に戻し,築地市場の抜本的な整備を真剣に検討すべきだと思います。

現在の築地市場〔(社)築地市場協会http://www.tsukiji-market.or.jp/より〕 (※連絡済み)

(龍門 歩)

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