龍門 歩 紹介

 僕は『ディジタルホルモン』(文芸社/04年07月発行)を「開放系」として提示した小説書きです。

 20代初めに書いた『築城』と、35歳ころから書きはじめた不確定性文学の短編集『外−空集合――法華経によせて』(以上は自費で本にまとめた)の2作が、自分としてはエポックメイキングな作品と思っています。以降、社会人として積極的に妥協しながら『朝日に照らされて』『iの部屋』『異形の恋』など、たくさんの作品を書き続けてきました。

 このたび出版した『ディジタルホルモン』は、小説書きとしての一応の集大成です。この作品は、人間と社会をダイナミックに鷲づかみする問題意識と、そこから湧き上がるイマジネーションのおもむくままに書く手法と、一般的な手法を融合させ、未だ出会ったことのない人々に読んでいただきたいと考えて仕上げたものです。

 おかげで『ディジタルホルモン』は不特定多数の人々の鑑賞に対峙し、次の作品への力強いステップとなってくれました。目標は、不確定性文学のエネルギーを全世界に放射すること。まだまだ遠い道のりですが、新しい文学の創造を目指していきます。




文学観

 文学は、作者の使った文字(言葉)と、文字(言葉)の成す「開放系」です。「系」とは、簡単にいえば「AとBの関係性とその継続の捉え方」ということができます。その関係性をある視点から、相互作用として捉える場合には「開放系」、捉えられない場合には「閉鎖系」といいます。人間は、生体としても「開放系」です。外部からの食物を摂取し、排泄したものを、生態系を経由してまた摂取するという「循環系」です。

 作者が提示したこの「開放系」が読者と成す『開放系』こそが、文学にほかなりません。そしてこの【系】は、(幸運ならば)どんどん拡大していって、まったく予測できない果てまで行ってしまい、(不幸ならば)縮小していって「閉鎖系」になるでしょう。

「系」の中身は無限に考えられます。何があってもいいし、なくてもいい。しかし、「人間」だけは欠くことのできないファクターです。人間の内面はもちろん、人間を取り巻くシステム、環境、未来――それらを、書き手それぞれが深く把握し、固有の文字(言葉)の系として提示することが大切だと思うのです。それには、問題意識を持った多くの書き手が議論し、主張し、高め合う必要があります。

 が、そのような意味で、現代の文学は恐ろしく衰退しています。『ディジタルホルモン』で述べたようにビジネス至上主義の波に飲まれ、画一化するいっぽう、イマジネーションが枯渇し、新しい文学、作家、詩人は圧殺されようとしています。あるネット書店のカテゴリー分けで、 ・ビジネス、経済・就職、資格・語学、辞書・コンピュータ・理学、工学・医学、薬学、看護・法律、社会・歴史、心理、教育・芸術 ・生活・ 趣味・地図、ガイド ・子ども・学習参考書・文芸・エンターテインメント・アイドル写真集 ・コミック、アニメ・ゲーム攻略本・DVD、CD他・その他

 で、やっと15番目に出てくる分野となっています。

 もちろん、ビジネスにならないということは、社会においてパワーにならないということでもあります。実際、現代の文学には、未来へ向かうダイナミズムがないのです、読者を捉える新鮮で強力な引力がないのです。物理学や数学が、過去の既成概念を次々と超克してきたように、文学もまた、古い殻を破って真の文字(言葉)のパワーを爆発させなければなりません。

 それは、書き手と読み手が化学反応を起こして、膨大なエネルギーを解放することです。書き手はイメージをどんどん形にすればいい、読み手は提示された「系」を破壊しつつ自らのイメージを構築すればいい――このホームページが、お互いに書き手であり読み手でもあるビジターが、何かを考えても、あるいは何も感じなくてもいい「場」となり、「触媒」となれば嬉しいことだと思います。

外−空集合――法華経によせて』中の一編《数の方角》の書きだしはこうです。


「何をしていないんですか?」

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